あるOBの呟き(番外編) - 第5回IFAFシニア世界選手権観戦記(6)

2015/07/20

いよいよやって来た決勝戦当時。朝の天気予報では、この日は一日晴でしかも最高気温は90度F(摂氏33度)を超えるという予報。実際お昼にキックオフされた、韓国vsオーストラリアの試合時点ですでに日差しは肌を刺す程です。しかし夕方になり日本vsアメリカの試合開始時刻になる頃には、厳しかった日もだいぶ傾き、しかも雲も出てきて日差しを遮り、さらに涼しい風も吹くようになってきました。サマータイムが実施されているので、試合開始時刻の19:00頃になっても、まだまだ明るい状態です。

前の試合、メキシコvsフランスの試合が終わり、日本チーム、アメリカチームの選手がグランドに入り、試合前のウォーミングアップを開始します。前日の最終調整で見たように、全体的にリラックスした印象の中、オフェンス、ディフェンス、それぞれのプレー確認や、QBとレシーバーのタイミング合わせ等がいつものように進められていきます。一方スタンドでは、それまで暑い日差しを避けて、メインスタンド側プレスボックスの日陰になる部分でそれまでの試合観戦をしていた日本からの応援団や、米国内に滞在している皆さんが、日本ベンチのバックスタンド側に移動。大小の日の丸があちこちで掲げられるなか、チーム入場、国歌斉唱、コイントスとセレモニーが行われ、日本チームのリターンでいよいよ試合が始まります。
 

出鼻を挫かれるインターセプト

日本の先発QBは、#10加藤選手。1st DownでWR#18木下選手へ3ヤードのパスを通すと、続いてWR#83林選手へ5ヤード、3rd DownではWR#81栗原選手へ9ヤードパスが通り、テンポ良くダウンを更新します。次のプレーでは、RB#21髙木選手がスクリメージラインの密集を上手く抜け、11ヤードの突進で再びダウンを更新します。リズムに乗る日本チームは、さらにWR#11前田選手へ14ヤードのパスが成功。ここまでノーミスで敵陣38ヤードまで到達します。逆に、これでアメリカディフェンスが気合いを入れたのか、RB#20古谷選手のランは厳しいチャージに合いロス。そして2nd Down 12ヤードとなったところで、QB#10加藤選手が投じたパスは、DB#25 Guthrie選手にインターセプトされ、そのまま75ヤードを独走するリターンTDとなります。TFPの2点コンバージョンも決まり、相手の攻撃シリーズが始まらないうちに0-8とリードを許してしまいます。

再び日本の攻撃は、3rd Down 10ヤードからRB#20古谷選手へパスが通りますが、1ヤード足らず4th Downパントに。ところが、このパントをDL#36 Douglas選手が45ヤード戻し、日本陣内19ヤードからアメリカ初めてのオフェンスシリーズとなります。一度Downを更新して、ゴール前5ヤードからのアメリカの攻撃。RB#6 Foster選手を続けて突進させるもそれを許さず3rd Down残り4ヤード。今度はQB#10 Burke選手が自ら持ち込みますが、これをDL#13平井選手がゴール前1ヤードでブロック。4th Downギャンブルでは、再びRB#6 Foster選手がエンドゾーンにダイブするところをDB#7藤田選手とLB#17天谷選手の二人が同時にタックル。気迫でゴールラインを死守し、スタンドもベンチも大いに盛り上がります。
 
続くシリーズではエンドゾーンを背負う厳しい状況からダウン更新は出来ずに、P#26佐伯選手がパントを蹴ります。素早く詰めていたDB#27辻選手がリターナーの足を捕まえて動きを止めたところに、DB#14藤本選手が止めタックルで陣地をさらに後退させて攻撃権が移動します。しかし自陣中央付近と絶好のポジションからのアメリカは、相手RBの巧みなカットバックに翻弄されて前進を許し、最後は2ヤードダイブで得点を許します。

1Q終盤から2Qにかけての日本のオフェンスは、QBを#8高田選手に交代。しかしアメリカの厳しいマークにパスは成功してもゲインを獲得出来ません。このシリーズもP#26佐伯選手のパントになりますが、今回もゴール前19ヤードと好位置まで押し戻します。アメリカチームは、今回のシリーズではパスにシフトし前進。最後はRB#28 Wimberly選手がオープンを一気に18ヤード駆け上がり2Q最初のTDを奪います。

さらに試合の流れはアメリカに傾きます。続く日本の攻撃は、自陣中央付近までQB#8高田選手が進めるものの、QBサックを受けたときにボールをファンブル。これをDB#23 Olugbode選手がリカバーし36ヤードのリターンTDとなります。

次の日本の攻撃では再びQB#10加藤選手が登場。WR#18木下選手へ9ヤードのパスが成功し、3rd Down残り1ヤード。右サイドライン際を相手DBとマンツーマンで駆け上がるWR#81栗原選手は、リード気味に投げられたパスに反応。二人とも前に飛び込みながらポールに向かいますが、一歩先んじていた栗原選手が指先でキャッチ。26ヤードのパス成功で一気に敵陣38ヤードまで進みます。これで流れが戻ってきたのか、WR#18木下選手への7ヤードパスの後、RB#21髙木選手が4ヤードダイブし、敵陣25ヤードで1st Downを更新。1st Downのプレーは、先の栗原選手同様、サイドライン際を今度はWR#1前田選手が駆け上がります。パスをキャッチした前田選手にDBの手が掛かりますが、これをステップでかわすとそのままエンドゾーンへ走り込み、日本待望のTDとなります。2点を狙ったTFPは失敗するものの、6-31と反撃の足がかりを掴んだ日本。しかしアメリカは残り3分弱から、ランで時間を消費しつつ、要所ではロングパスが成功して前進。30ヤードのあわやTDパスと言うプレーを、エンドゾーン1ヤードでDB#3石井選手が辛くもタックル。1st/2nd Downのラッシュは止めたものの、3rd Downでのプレーアクションパスは防ぎきれず、結果6-38という予想外の大差で前半を折り返すことになります。
 

ディフェンス執念のTD

後半3Qはアメリカの攻撃からでしたが、これは相手のパスを防ぎきり4th Downパント。次の日本の攻撃ではQB#10加藤選手がWR#81蔵原選手へ14ヤードをパスを通してダウンを更新しますが、続くパスが通りません。相手の反則に助けられてダウンを更新するものの、敵陣に入ったところで今度は日本の反則で後退すると、RB#21髙木選手、#29李選手へのディレーパスが相手ことごとくロスタックルされ4th Downパントになります。P#26佐伯佐伯選手のパントは、絶妙なバウンドでゴール前2ヤードで外に出ます。この厳しい場面に、タイトフォーメーションからスナップを受けるQB#3 Farve選手。しかしエクスチェンジミスでボールは手に付かず、ファンブルしてエンドゾーン内に転がり込みます。そこへ突進してきたDL#54冨田選手は、QBと競争でボールにダイブ。抱え込むようにボールを確保して、TDを奪います。

まだ12-38と点差は開いているものの、ディフェンスのビッグプレーに大いにチームの士気も上がります。しかし、攻撃権を狙ったオンサイドキックはボールを確保できずに外へ出てしまい、逆に相手に日本陣内44ヤードからの好機を与えてしまいます。1st Downのパス成功の後の2nd Down 2ヤード、ボールを受けたWR#13 Steelman選手は、リードブロッカーも巧みに使い、さらにステップワークでタックルに来る日本選手をかわし、36ヤードTDランとなり、点差は再び12-45と広がります。


続く日本の攻撃では、QBは#8高田選手に交代。WR#81栗原選手へ20ヤードのスクリーンパスが成功し大きく前進するものの、続く攻撃ではパスが安定せず、またキャッチして直ぐにタックルされるため距離が稼げません。それでもWR#18前田選手の個人技でファーストダウンを更新する10ヤードパスの後、WR#11木下選手へのパスはDBとの厳しい競り合いの中で成功し、一気に30ヤードを前進。ゴール前11ヤードでファーストダウンを獲得します。ここから、厳しいパスディフェンスに苦しみ、さらに自らもQBサックを受けて大きく後退し、4th Down残り12ヤード、ゴール前13ヤード。ギャンブルプレーでTDを狙いますがパスは失敗。どうしてもアメリカの厚い壁を破れません。

逆にアメリカは、疲労が感じられる日本のディフェンスに対して、パスとランを交互に仕掛けて揺さぶり、ダウンを更新していきます。このアメリカのシリーズは、そのまま4Qに突入。さらにじりじりと後退を余儀なくされる日本ディフェンスですが、DB陣の踏ん張りに、相手の反則も重なり4th Down残り20ヤードまで大きく後退。流石にパントで攻撃権を放棄します。このパント、RB#21髙木選手がフェアキャッチシグナルを出し終了、と思いきやまさかの落球。詰めていたアメリカのカバー選手と一瞬ボールの取り合いとなりますが、何とか髙木選手が自ら確保して難を逃れます。

時間的にも、何とかして一本返したい日本オフェンス。自陣16ヤードからの攻撃は、2nd DownでQB#8高田選手がQBサックを受けて3ヤード後退。さらに3rd Downでは再びQBサックを受けた高田選手がボールをファンブルすると、そのボールを確保したLB#34 Gross選手がエンドゾーンへ持ち込みTD。再びディフェンスに得点を許してしまいます。

続く日本の攻撃も4th Downで終わると、次のアメリカの攻撃も防ぐことが出来ずTDを許してしまい、得点は12-59とさらに広がります。何とか一つ返したい日本は、WR#81栗原選手が37ヤードの好キックオフリターンで意地を見せます。さらに、QB#10加藤選手からWR#1宜本選手へ24ヤードパスが成功しますが、これはイリーガルフォーメーションの反則で無効に。3rd Down残り19ヤードの厳しい状況から、WR#19永川選手へパスが成功するもも、17ヤードとダウン更新まで2ヤード残ります。4th Down残り2ヤードから、WR#11前田選手へパスが投げられますが残念ながら失敗。得点出来ずにアメリカに攻撃権が移動します。

試合時間はまだ1分25秒残っているものの、アメリカはこれ以上のプレーはせずにニーダウンで時計を進めます。どちらのチームもタイムアウトを2つずつ残していましたが、日本もそのまま時計を流し、最終スコア日本12 - 59アメリカで試合が終了しました。
 

フットボールのDNAを獲得するために

正直なところ、予想外の点差には声も出ないという状況です。「れば」「たら」は禁物ではあるけれど、序盤のインターセプトからのTDが一気に試合の雰囲気を変えてしまった気がします。また、この試合で見られたアメリカチームの選手の動きは、初戦で見たものとは異なり、ある意味別のチームと対戦しているような印象すら受けました。特にRBやWRの走りでは、そのカットバックやチェンジオブペースについて行けない日本選手が何度も置き去りになり、これはもう本能とかDNAレベルの差では無いかとすら感じさせられる状態でした。さらに、ここまで一週間のうちに激しい試合が3試合もあり、試合前半2Q頃から疲れの感じられる選手も見られ、後半への危惧が的中してしまいました。試合日程の問題はあるものの、相手はここまで4試合戦ってきているわけですから、条件で言えば相手の方が厳しいわけで、そう言う意味では日本選手としてのパワー、スタミナ、持久力、全ての面でまだまだ足りない部分があるなと感じる試合でした。

アメリカにしても、この日本との決勝戦を意識してきたなと特に感じるのは、最初はノーハドルからクイックスタートを入れて日本のディフェンスを攪乱したり、序盤のTFPでは2点コンバージョンのために、かなり極端なアンバランス体型を持ち込んできたり、やはりそれなりに日本というチームが意識されていたことは事実だと思います。ただ、元々能力も経験も豊富な人間が、さらに今回は事前に集中合宿までして意識統合をしてまで準備して来た相手に対して、残念ながら日本側の準備はまだまだ十分では無かったことも事実でしょう。サッカー、あるいは最近の野球のオールジャパンのような、常時候補選手が集まりチーム作りが出来るような環境や、また数年に一度ではなく、やはり「本物のアメリカ人フットボールチーム」と、手加減無しの対戦を繰り返して、経験値と能力を上げていく必要性を痛感しました。当然、100人の中からの45名の代表選手では無く、1,000人、1万人、もっと多くの中からセレクションされた45名が代表選手となるような、裾野の拡大も必須です。一つ二つの課題を解決して出来るものでは無いことは、多分フットボール関係者誰しも理解していると思うものの、例えば野球のWBCしかり、男女サッカーのW杯での活躍しかり、世界を相手に五分五分以上の勝負が出来るチームでなければ、世間からも認知されません。その為にも、まずは国内のリーグ戦がもっと活性化されて、どのチームも切磋琢磨出来る仕組みと、それ以上にそう言うことを実行するという強い覚悟が必要ではないかと感じました。2016年シーズンからは、Xリーグでは新しい対戦方式が導入される予定ですが、更なる対策の必要を感じた決勝戦でした。

試合後のセレモニーでは選手だけで無くコーチ、スタッフ全員がフィールドに集まり、それぞれの健闘をたたえ合う姿があちこちに見られました。長い遠征試合を戦い抜いた選手の皆さんには、本当に敬意と賞賛を送りたい気持ちですし、それら選手を支えたコーチ、スタッフ全員にも、心から「お疲れ様でした」と言いたい気持ちです。この後、各選手、コーチ、スタッフはそれぞれの所属チームに戻り、この大会の経験をチームメンバーと共有すると思いますが、多くのメンバーを送り出している強豪チームにとっては、さらに飛躍する機会にもなります。栗原選手、髙木選手の活躍は素晴らしかったものの、BigBlueにとっては秋のリーグ戦に向けて、更なる準備と努力が要求されるプレシーズンになる事だけは確実です。秋のリーグ戦でどれだけの成長を見せてくれるのか、BigBlueだけでなく全てのチームに注目してみたいと思います。
捲土重来、日本!

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